コーヒー豆を買ったとき、お店で「挽きますか?」と聞かれて、挽いてもらった豆を何と呼べばいいか迷った経験はありませんか。あるいは、コーヒーショップで「挽いた豆ください」と言って通じるのか、もっとスマートな言い方があるのか気になっている方もいるかもしれません。
実はこの疑問は、コーヒーを楽しみ始めた多くの方が抱くものです。この記事では、コーヒー豆を挽いたものの正式名称であるコーヒー粉という呼び方から、英語での表現、さらにはグラインドという専門用語の意味まで、詳しく解説します。
また、スーパーでの選び方や、挽いたあと風味を落とさないための正しい保存方法、美味しく飲める賞味期限の目安、そしておすすめの飲み方まで、網羅的にご紹介します。飲み終わったあとのコーヒー豆のカスの意外な活用法も取り上げますので、コーヒーに関する知識を一層深めることができるはずです。
記事のポイント
- コーヒー豆を挽いたものの正式名称と一般的な呼び方
- 挽き方の種類による名称の違いと自分に合った選び方
- 挽いた粉の風味を損なわない正しい保存方法と美味しく飲むためのポイント
- 英語での表現やコーヒーショップでのスマートな注文方法
コーヒー豆を挽いたものの名称と基本知識
- 正式名称はコーヒー粉と呼ばれる
- 英語での呼び方はGround Coffee
- グラインドは豆を挽く動作を指す言葉
- スーパーで手軽に購入できる種類
- おすすめの選び方と挽き方の種類
正式名称はコーヒー粉と呼ばれる
コーヒー豆を焙煎し、細かく砕いたものを指す最も正式で一般的な名称は「コーヒー粉(コーヒーこな)」です。
コーヒー業界や愛好家の間ではこの呼び方が広く浸透しており、製品のパッケージにもこの名称が用いられています。読み方については「コーヒーこな」が最も自然ですが、まれに「コーヒーふん」と読まれることもあります。
「レギュラーコーヒー(粉)」という表記の意味
スーパーなどで製品を見ると、「レギュラーコーヒー(粉)」という表記を頻繁に目にします。この「レギュラーコーヒー」とは、一体何を指すのでしょうか。
これは、「コーヒー飲料等の表示に関する公正競争規約」という業界のルールで定められた区分です。この規約では、焙煎したコーヒー豆、またはそれを挽いたコーヒー粉のことを「レギュラーコーヒー」と定義しています。この表記は、特に他のコーヒー製品と区別するために重要な役割を果たします。
他のコーヒー製品との明確な違い
コーヒーと名の付く製品には、コーヒー粉の他にも様々な形態があります。
- インスタントコーヒー: 一度レギュラーコーヒーを抽出(ドリップ)し、その液体から水分を飛ばして乾燥させ、溶けやすい粉末状や顆粒状に加工したものです。お湯を注ぐだけで飲める手軽さが特徴ですが、製造過程で香りや風味が失われやすい側面もあります。
- リキッドコーヒー: レギュラーコーヒーを抽出し、液体(ドリンク)の状態でパックやボトルに詰めたものです。開封してすぐに飲める利便性があります。
このように、「コーヒー粉(レギュラーコーヒー粉)」は、豆を挽いただけの、抽出前の状態であるという点が、他の製品との決定的な違いです。この違いを理解することが、自分の好みやライフスタイルに合ったコーヒー製品を選ぶ上での第一歩となります。
英語での呼び方はGround Coffee
コーヒー豆を挽いたものは、英語圏では一貫して「Ground Coffee(グラウンドコーヒー)」と呼ばれます。
「Ground」は「挽く」を意味する動詞「grind」の過去分詞形であり、「挽かれたコーヒー」という状態を的確に表しています。国際的なコーヒーチェーン店、海外のスーパーマーケット、オンラインストアなど、あらゆる場面でこの表現が使われます。
これに対し、まだ挽かれていない焙煎豆の状態のものは「Whole Bean Coffee(ホールビーンコーヒー)」、あるいは単に「Coffee Beans」と呼ばれます。製品パッケージにも「Ground」と「Whole Bean」は明確に区別して表記されているため、海外でコーヒーを購入する際にも、この2つの単語を知っていれば間違うことはありません。
海外のカフェでスマートに注文する
海外のカフェでコーヒー豆を購入する際に、挽いてもらいたい場合はどう伝えれば良いでしょうか。いくつかのフレーズを覚えておくと、自信を持って注文できます。
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豆を選んでから挽いてもらう場合:
- "Could you grind these beans for me?" (これらの豆を挽いてもらえますか?)
- この後、多くの場合、どのような器具で淹れるか(挽き方の指定)を尋ねられます。その際は、"For pour-over."(ハンドドリップ用です)、"For French press."(フレンチプレス用です)のように答えます。
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挽き方を具体的に指定する場合:
- "I'd like a medium grind, please." (中挽きでお願いします)
- 挽き方の英語表現は以下の通りです。
- 極細挽き: Extra Fine Grind
- 細挽き: Fine Grind
- 中挽き: Medium Grind
- 粗挽き: Coarse Grind
これらの簡単な表現を知っておくだけで、海外でのコーヒー体験がより豊かなものになります。
グラインドは豆を挽く動作を指す言葉
「グラインド(Grind)」という言葉は、コーヒー豆を挽くという「行為」やその「過程」、または「挽き方(粒度)」そのものを指す用語です。
これは英語の動詞「grind」に由来しており、日本のコーヒー専門店の会話でも「この豆は中挽きでグラインドします」といった形で、動詞的に使われることがよくあります。したがって、挽いた結果として出来上がった粉そのものを指す言葉ではない、という点を理解しておくことが重要です。前述の通り、挽かれた粉は「グラウンドコーヒー(Ground Coffee)」と呼びます。
そして、このグラインドを行うための器具が「グラインダー(Grinder)」や「コーヒーミル(Coffee Mill)」です。
グラインダー(ミル)の種類と特徴
家庭用のグラインダーには、主に2つの方式があります。それぞれの仕組みと特徴を知ることは、理想のコーヒーを追求する上で非常に役立ちます。
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ブレード式(プロペラ式)グラインダー: ミキサーのように、容器の底にあるプロペラ状の刃を高速回転させてコーヒー豆を粉砕する方式です。構造がシンプルで安価な製品が多く、手軽に導入できるのが最大のメリットです。しかし、豆を砕くだけなので、挽き終わった粉の粒度が不均一になりやすいというデメリットがあります。また、高速回転による摩擦熱でコーヒーの風味を損なう可能性も指摘されています。
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臼式グラインダー: 固定された刃と回転する刃の2つの「臼(うす)」の間に豆を挟み込み、すり潰すようにして挽く方式です。粒度の均一性が非常に高く、摩擦熱も発生しにくいため、コーヒーの風味を最大限に引き出すことができます。ダイヤルなどで挽き方を細かく設定できる製品が多く、こだわり派には必須のアイテムと言えます。臼式の刃には、さらに「コニカル(円錐)刃」と「フラット(平行)刃」の2種類があり、それぞれ粒の形状や微粉の量に特徴があります。価格はブレード式に比べて高価になりますが、投資する価値は十分にあるでしょう。
このように、「グラインド」という言葉の背景には、美味しい一杯のための奥深い器具の世界が広がっています。
スーパーで手軽に購入できる種類
スーパーマーケットの棚には、様々な種類の挽き済みコーヒー(コーヒー粉)が並んでおり、誰でも手軽にコーヒーライフを始めることができます。これらの製品は、消費者が選びやすいように、用途や特徴が分かりやすく記載されているのが一般的です。
用途別に分類された一般的な製品
- ドリップコーヒー用: 最も一般的なタイプで、ペーパードリップやコーヒーメーカーでの抽出に適した「中細挽き」に調整されています。UCC、AGF、キーコーヒーといった大手メーカーの主力商品がこのカテゴリーに含まれます。
- エスプレッソ用: 家庭用エスプレッソマシンで高圧抽出するために、パウダー状に近い「極細挽き」になっています。イタリアのブランドであるイリー(illy)やラバッツァ(LAVAZZA)などが有名です。
- アイスコーヒー用: 水出しや急冷式のアイスコーヒー向けに、深煎りの豆を「中挽き」から「粗挽き」にしていることが多いです。コクがあり、すっきりとした後味になるようにブレンドされています。
- カフェインレス(デカフェ): 特殊な製法でカフェインを90%以上除去したコーヒー豆を使用しています。就寝前や妊娠中など、カフェインを避けたい方向けで、挽き方はドリップ用が主流です。
購入時のチェックポイント
手軽なスーパーのコーヒー粉ですが、より美味しく楽しむためには、購入時にいくつかチェックしたいポイントがあります。
- 賞味期限: パッケージに記載されている賞味期限を確認し、なるべく製造年月が新しく、期限まで余裕のあるものを選びましょう。
- パッケージの形状: 袋がパンパンに膨らんでいるものを見かけることがありますが、これは焙煎後に出る炭酸ガスが充満している証拠で、鮮度がある程度保たれているサインとも言えます。袋に「アロマシール」や「ガス抜きバルブ」という一方向弁が付いている製品は、内部のガスを放出しつつ外気の侵入を防ぐため、品質保持に優れています。
これらの製品は、挽きたてには敵わないものの、品質管理が徹底されており、日常的に安定した味を手軽に楽しめるという大きなメリットがあります。
おすすめの選び方と挽き方の種類
コーヒー粉を選ぶ上で最も重要なのは、自分が使用する抽出器具に合った「挽き方(粒度)」を選ぶことです。挽き方と抽出は密接な関係にあり、この組み合わせがずれると、コーヒーのポテンシャルを全く引き出せなくなってしまいます。
なぜ挽き方が重要なのか?
コーヒー豆を挽く目的は、お湯とコーヒー成分が接触する表面積を増やすことにあります。
- 細かく挽く: 表面積が非常に大きくなるため、お湯と触れる時間が短くても成分が素早く抽出されます。しかし、抽出時間が長すぎると、渋みや雑味といった不要な成分まで溶け出す「過抽出」になりがちです。
- 粗く挽く: 表面積が小さいため、成分が溶け出すのに時間がかかります。抽出時間が短すぎると、コーヒー本来の甘みやコクが十分に引き出されず、物足りない味になる「未抽出」の状態になります。
つまり、抽出時間と挽き方はセットで考える必要があり、それぞれの抽出器具が持つ「最適な抽出時間」に合わせて挽き方を調整するのが基本の考え方です。
抽出器具と挽き方のベストマッチング
- 極細挽き: エスプレッソマシン(抽出時間:約20~30秒) 高圧をかけて一気に抽出するため、最大限の表面積が必要。
- 細挽き: 水出しコーヒー(ダッチコーヒー)(抽出時間:数時間) ゆっくり時間をかけて抽出するため、細かい粒度で効率よく成分を引き出す。
- 中細挽き: ペーパードリップ、コーヒーメーカー(抽出時間:約2~3分) 最も標準的な組み合わせ。適度な時間でバランス良く抽出できる。
- 中挽き: ネルドリップ、サイフォン(抽出時間:器具によるが比較的短い) クリアでマイルドな味わいを引き出しやすい。
- 粗挽き: フレンチプレス、パーコレーター(抽出時間:約4分) 粉をお湯に浸漬させるため、粗挽きにしないと微粉で濁ったり、過抽出で渋くなったりする。
もしどの挽き方を選べば良いか迷ったら、まずは最も汎用性が高い「中細挽き」から試してみてください。そして、同じ豆でも挽き方を変えると「細挽きは苦味が強く」「粗挽きは酸味が立つ」という味の変化を楽しんでみるのも、コーヒーの奥深い世界への入り口です。
コーヒー豆を挽いたものの名称と美味しい活用法
- 挽いたあとの風味の変化と注意点
- 美味しく飲める賞味期限の目安
- 風味を保つ正しいコーヒー粉の保存方法
- 美味しいコーヒーの飲み方のポイント
- 意外と使えるコーヒー豆のカスの再利用法
挽いたあとの風味の変化と注意点
コーヒー豆は、挽いた瞬間をピークに、その繊細で豊かな風味は失われ始めます。これは避けられない物理的・化学的な変化であり、「挽きたてのコーヒーが一番美味しい」と言われる本質的な理由です。
風味を劣化させる2大要因
挽いたあとのコーヒー粉では、主に2つの変化が急速に進行します。
- 香りの揮発: コーヒーの魅力的な香りは、焙煎プロセスで生まれる800種類以上もの揮発性の香り成分によって構成されています。豆の状態では内部に閉じ込められていますが、挽くことでこれらの成分が一気に空気中に放出され、時間と共に失われていきます。
- 酸化: 豆を挽くと、内部の組織が空気に触れる表面積は何百倍にも増大します。これにより、空気中の酸素との化学反応である「酸化」が劇的に加速します。コーヒーの油脂分が酸化すると、心地よい酸味は不快な酸っぱさに、甘みは油が劣化したような風味に変わってしまいます。
豆の状態なら数週間かけて進む劣化が、粉の状態ではわずか数日で同程度まで進んでしまうと考えられています。
焙煎後の「ガス抜き」との関係
少し専門的な話になりますが、焙煎直後のコーヒー豆には大量の二酸化炭素(ガス)が含まれています。このガスは、お湯を注いだ際に粉を大きく膨らませる役割を果たしますが、多すぎるとお湯と粉の接触を妨げ、抽出が不安定になる原因にもなります。
そのため、プロの世界では、豆の種類や焙煎度合いによっては、豆のまま数日間エイジング(ガス抜き)させたり、挽いてから少しだけ時間を置いてガスを落ち着かせてから抽出したりすることもあります。しかし、家庭で楽しむレベルでは、このガスが抜けることによる風味の向上よりも、酸化と香りの揮発による劣化のスピードの方がはるかに速いため、「できるだけ早く飲み切る」ことを優先するのが賢明です。
美味しく飲める賞味期限の目安
市販のコーヒー粉のパッケージに表示されている「賞味期限」は、あくまでメーカーが定めた「未開封の状態で、品質が変わらずに美味しく食べられる期限」です。一度開封してしまえば、その期限はもはや保証されません。
では、開封後のコーヒー粉は、いつまで美味しく飲めるのでしょうか。
開封後の「美味しい期間」はどれくらい?
保存状態にもよりますが、多くの専門家や愛好家が口を揃えるのは、開封後「2週間以内」というのが一つの大きな目安です。
- 開封~3日: 挽きたてに近い、最も華やかな香りや豆の個性が楽しめる期間。
- ~1週間: 香りは少し落ち着きますが、味わいのバランスはまだ良好な状態。
- ~2週間: 風味の劣化が感じられ始める頃。繊細なフレーバーは失われ、味が平坦になりがち。
- 2週間以降: 明らかに香りが弱くなり、酸化による不快な酸味や渋みを感じやすくなる。
もちろん、2週間を過ぎたら飲めなくなるわけではありません。しかし、「美味しいコーヒー」として楽しむのであれば、この期間を意識することが大切です。
風味が落ちてしまったコーヒー粉の活用法
もし飲みきれずに風味が落ちてしまったと感じるコーヒー粉があれば、捨てる前にいくつか試せる方法があります。
- 水出しコーヒーにする: お湯で淹れるよりも、酸化による嫌な酸味や苦味が抑えられ、マイルドな味わいになることがあります。
- カフェオレやアレンジコーヒーにする: 牛乳やシロップ、スパイスなどを加えることで、コーヒー自体の風味の劣化をカバーし、美味しく楽しむことができます。
- コーヒーリキュールの材料にする: 焼酎やウォッカにコーヒー粉と砂糖を漬け込めば、自家製のコーヒーリキュールが作れます。
購入する際は、2週間で無理なく飲み切れる量のパッケージを選ぶのが、最後まで美味しく楽しむための最もシンプルで効果的な方法です。
風味を保つ正しいコーヒー粉の保存方法
前述の通り、挽いたコーヒー粉の風味を損なう最大の敵は「酸素」「光」「高温」「湿気」です。これらの外的要因からいかにコーヒー粉を守るかが、美味しさを長持ちさせる鍵となります。
基本は「密閉して冷暗所」
最も重要かつ基本的な保存方法は、密閉性の高い容器に入れ、直射日光や熱が当たらない涼しい場所(冷暗所)で保管することです。
- 密閉容器: コーヒー粉は、購入時の袋から専用の保存容器に移し替えるのが理想です。袋のまま保存する場合は、内部の空気をできるだけ抜いてから、口を折りたたんで専用のクリップなどでしっかりと密封しましょう。
- 冷暗所: キッチンの戸棚やパントリーなどが適しています。コンロの近くや窓際、電化製品の上など、温度が変化しやすい場所は絶対に避けてください。
保存容器(キャニスター)の種類と選び方
コーヒー用の保存容器(キャニスター)には様々な材質があり、それぞれにメリット・デメリットがあります。
材質 | メリット | デメリット |
---|---|---|
ステンレス | 遮光性・密閉性が高い、丈夫で匂いがつきにくい | 中身が見えない、価格が高め |
ホーロー | 遮光性・密閉性が高い、匂いがつきにくい、デザイン性が良い | 衝撃に弱い、重い |
陶器 | 遮光性が高い、デザイン性が良い | 密閉性が製品による、衝撃に弱い、重い |
ガラス | 匂いがつきにくい、中身が見えて残量が分かりやすい | 遮光性がない(透明な場合)、割れやすい |
プラスチック | 軽くて扱いやすい、安価 | 遮光性がない、静電気で粉が付きやすい、匂いが移りやすい |
総合的に考えると、遮光性と密閉性に優れたステンレス製やホーロー製のものがコーヒー粉の保存には最も適していると言えます。
冷蔵・冷凍保存の是非と注意点
長期保存の方法として冷蔵庫や冷凍庫が思い浮かびますが、これは諸刃の剣です。
- メリット: 低温により酸化の進行を遅らせることができます。
- デメリット:
- 結露: 冷たい容器を常温に出すと、温度差で容器の表面や内部に水滴(結露)が発生し、湿気で粉を劣化させます。
- 匂い移り: コーヒー粉は非常に強い吸着性を持つため、庫内の他の食品の匂いを吸収してしまいます。
もし冷蔵・冷凍保存を選ぶのであれば、以下のルールを徹底する必要があります。
- 完全に密閉できる容器に入れる。
- 一度に使い切れる量で小分けにして保存する。
- 使用する際は、容器を庫内から出したら絶対に開封せず、常温に戻るまで待つか、凍ったままの状態で素早く計量してすぐに密閉し、庫内に戻す。
家庭での管理の難しさを考えると、常温の冷暗所で2週間以内に飲み切るのが、最も安全で確実な方法と言えるでしょう。
美味しいコーヒーの飲み方のポイント
挽いたコーヒー粉のポテンシャルを最大限に引き出すためには、淹れ方の各工程でいくつかのポイントを意識することが大切です。ここでは、家庭で最も一般的なペーパードリップを例に、その具体的な手順と理由を詳しく解説します。
ポイント1. 粉の量とお湯の比率を正確に計る(再現性の確保)
毎回安定した美味しいコーヒーを淹れるための第一歩は、正確な計量です。コーヒーの味わいは、粉とお湯の比率(ブリューレシオ)で決まります。
- 基準の比率: 一般的な目安は、コーヒー粉10gに対してお湯120ml〜150mlです。1杯分なら粉10g、2杯分なら20gというように計算します。
- なぜ計るのか: 感覚で淹れると、日によって味が濃くなったり薄くなったりと、ブレが生じます。スケール(はかり)を使って粉の重さと注ぐお湯の量を正確に計ることで、美味しいと感じた味をいつでも再現できるようになります。これは、上達への最短ルートです。
ポイント2. お湯の温度を焙煎度合いに合わせる(風味のコントロール)
お湯の温度は、コーヒーからどの成分をどれだけ引き出すかをコントロールする重要な要素です。
- 基本の温度: 一般的には90℃前後が最適とされます。沸騰直後(100℃)のお湯は熱すぎて苦味や雑味が出やすいため、火から下ろして30秒〜1分ほど置き、少し落ち着かせてから使います。
- 焙煎度合いとの関係:
- 浅煎りの豆: 豆の組織が硬く、成分が溶け出しにくいため、やや高めの温度(90〜95℃)で淹れると、華やかな酸味や甘みを引き出しやすくなります。
- 深煎りの豆: 豆の組織が脆く、成分が溶け出しやすいため、やや低めの温度(85〜90℃)で淹れると、余計な苦味を抑え、まろやかなコクと甘みを引き出すことができます。
ポイント3. 「蒸らし」の工程で抽出の土台を作る
蒸らしは、美味しいコーヒーを淹れるための最も重要な準備運動です。
- 方法: ドリッパーにセットしたコーヒー粉全体が湿る程度に、中心からゆっくりと少量のお湯を注ぎ、20〜30秒間待ちます。
- 目的:
- ガスの放出: 粉に含まれる炭酸ガスを放出し、お湯の浸透をスムーズにします。新鮮な粉ほど、この時にハンバーグのようにふっくらと膨らみます。
- 均一な抽出: 粉全体にお湯を行き渡らせることで、この後の本抽出で成分がムラなく溶け出すための土台を作ります。この工程を省くと、お湯が一部分だけを通り抜ける「湯抜け」が起こり、薄く、味気ないコーヒーになります。
ポイント4. ゆっくり丁寧に注ぎ、時間を管理する
お湯の注ぎ方と抽出時間も、味を決定づける最後の仕上げです。
- 注ぎ方: サーバーに落ちるコーヒーの量を見ながら、中心から外側に向かって、細く、優しく、「の」の字を描くように注ぎます。ドリッパーの縁に直接お湯を当てないように注意しましょう。
- 抽出時間: 蒸らし始めてから抽出が終わるまでの全体の時間は、2分半から3分程度が目安です。これより短すぎると未抽出(薄い味)に、長すぎると過抽出(渋く、苦い味)になる傾向があります。注ぐお湯の量やスピードを調整して、時間をコントロールする意識を持つことが大切です。
これらのポイントは少し手間に感じるかもしれませんが、一つひとつを丁寧に行うことで、コーヒーの味わいは劇的に向上します。
意外と使えるコーヒー豆のカスの再利用法
毎日コーヒーを飲む習慣があると、想像以上の量のコーヒー豆のカス(抽出後のコーヒー粉)が発生します。これをただ生ゴミとして捨ててしまうのは、環境にも家計にももったいないことです。乾燥させたコーヒー豆のカスは、その特性を活かして日常生活の様々な場面で役立ちます。
強力な消臭剤・脱臭剤として
コーヒー豆を焙煎すると、内部に無数の小さな孔(あな)ができます。この多孔質な構造が、アンモニアなどの悪臭成分を物理的に吸着する「活性炭」と似た働きをします。
- 乾燥方法:
- 天日干し: 平らな皿や新聞紙に広げ、風通しの良い場所で数日間、完全に乾燥させます。
- 電子レンジ: 耐熱皿に広げ、数十秒ずつ様子を見ながら加熱と混ぜる作業を繰り返します。焦がさないように注意が必要です。
- フライパン: 弱火で混ぜながら乾煎りします。水分が飛んでサラサラになったら完了です。
- 活用場所:
- 冷蔵庫・冷凍庫: 小さな容器や通気性のある布袋に入れて置きます。
- 靴箱・下駄箱: 布袋や古いストッキングに入れて隅に置きます。
- クローゼット・タンス: 湿気取りも兼ねて、隅に吊るしたり置いたりします。
- 灰皿: 乾燥させたカスを灰皿に敷いておけば、タバコの火消しと臭い消しの両方に役立ちます。
- ゴミ箱: ゴミ箱の底に直接振りかけておくと、生ゴミの臭いを軽減できます。
ガーデニングの肥料や虫除けに
コーヒー豆のカスは、植物の生育に有益な有機物や栄養素(特に窒素)を含んでいます。
- 肥料として: よく乾燥させたカスを、土の表面に薄く撒いたり、腐葉土などと混ぜて堆肥として発酵させてから使用します。土壌を酸性に傾ける性質があるため、アジサイやブルーベリーなど酸性を好む植物と相性が良いです。ただし、カビの発生を防ぐため、生乾きのまま大量に与えるのは避けましょう。
- 虫除けとして: コーヒーの独特の香りは、アリ、ナメクジ、カタツムリ、蚊などが嫌うと言われています。家の周りや植物の根元に乾燥したカスを撒いておくと、これらの害虫を遠ざける効果が期待できます。
掃除やメンテナンスに
- 油汚れ落とし: 食器やフライパンに残った油汚れにカスを振りかけ、キッチンペーパーなどでこすると、カスが油を吸着して汚れが落ちやすくなります。
- 針山のサビ防止: 布で小さな袋を作り、中に乾燥させたカスを詰めると、針山(ピンクッション)になります。コーヒーの油分が針のサビを防ぎ、滑りを良くしてくれます。
- フローリングのツヤ出し: 湿らせたカスを古いストッキングなどに入れ、固く縛ります。これでフローリングを磨くと、細かな傷を目立たなくし、自然なツヤを与える効果があります。
美容に活用する(ボディスクラブ)
コーヒーの細かい粒子は、肌の古い角質を取り除くスクラブとして利用できます。カフェインには肌を引き締める効果も期待されています。
- 作り方: 乾燥させたコーヒーカス(大さじ2〜3)に、キャリアオイル(ココナッツオイル、オリーブオイル、ホホバオイルなど)を大さじ1〜2、お好みでハチミツを少量加えてよく混ぜます。
- 使い方: 入浴中に、ひじ、ひざ、かかとなど、角質が気になる部分に優しくマッサージするようになじませ、その後よく洗い流します。
- 注意点: 顔などの皮膚の薄い部分への使用は避け、必ず事前に腕の内側などでパッチテストを行ってください。肌に異常を感じた場合はすぐに使用を中止しましょう。
このように、抽出後のコーヒー粉は捨てるにはあまりにも惜しい、可能性に満ちた素材です。ぜひ、ご自身のライフスタイルに合わせて活用してみてください。
総括:コーヒー豆を挽いたものの名称
この記事で解説した「コーヒー豆を挽いたものの名称」と、それに関連する幅広い知識について、重要なポイントを最後に改めてまとめます。
- コーヒー豆を挽いたものの最も正式な名称はコーヒー粉
- レギュラーコーヒー粉という呼び方はインスタントコーヒーと区別するために使われる
- 英語では挽かれたコーヒーを意味するGround Coffeeと呼ぶ
- Whole Bean Coffeeは挽く前の豆の状態を指す
- グラインドはコーヒー豆を挽く行為や挽き方のこと
- グラインダーは豆を挽く器具で臼式とブレード式がある
- 臼式グラインダーは粒度が均一で風味を損ないにくい
- 挽き方は極細挽きから粗挽きまであり抽出器具の特性で選ぶ
- 迷ったら最も汎用的な中細挽きを選ぶのがおすすめ
- コーヒーは挽いた瞬間から酸化と香りの揮発が急速に進む
- 美味しさのピークは挽きたてで開封後は2週間以内に飲み切るのが目安
- 保存の4大敵は酸素・光・高温・湿気
- 保存は密閉容器に入れ光の当たらない涼しい場所が基本
- 冷凍保存した粉は解凍せず凍ったまま使うのが鉄則
- 美味しい淹れ方の鍵は粉と湯の量、湯温、蒸らし、注ぎ方の4要素
- 湯温は豆の焙煎度合いで調整するとより美味しくなる
- 浅煎りは高温で華やかに、深煎りは低温でまろやかに
- 蒸らしは粉のガスを抜き均一な抽出を促す重要な工程
- 抽出後のコーヒー豆のカスは捨てずに再利用できる
- カスは乾燥させれば強力な消臭剤や脱臭剤として活躍する
- ガーデニングでは肥料や虫除けとしても活用可能
- スクラブや掃除など生活の様々な場面で役立つ